あなたのお金と暮らしを守る 将来のための成年後年後見制度入門
老後のお金、将来の管理に不安はありませんか?
年金生活を送る中で、日々のお金のやりくりや、貯金の管理など、様々なことに気を配られていることと思います。多くの方が、安心して老後を過ごすためにお金について考え、工夫をされています。
しかし、もし将来、病気などでご自身で財産の管理や、様々な手続きをすることが難しくなった場合、あなたのお金や暮らしはどのように守られるのでしょうか。ご家族がいらっしゃる方も、そうでない方も、この点について漠然とした不安を感じることがあるかもしれません。
このような「もしも」の時に備え、ご自身の大切な財産や権利、そして暮らし全体を守るための仕組みの一つに、「成年後見制度」があります。この制度について、基本的なことから分かりやすくお伝えいたします。
成年後見制度とは、どのような制度ですか?
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などが原因で、判断能力が十分でない方々を保護し、支援するための国の制度です。この制度を利用することで、財産の管理や、福祉サービス、医療に関する契約などが適切に行われるようになります。
成年後見制度には、大きく分けて二つの種類があります。
- 法定後見制度: すでに判断能力が不十分になった場合に利用する制度です。家庭裁判所への申立てに基づいて開始されます。
- 任意後見制度: まだ判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめご自身で「誰に」「どのような内容の支援をお願いするか」を決めておく制度です。
それぞれについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
すでに判断能力が不十分な場合の「法定後見制度」
法定後見制度は、ご本人の判断能力の程度によって、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。判断能力がほとんどない場合は「後見」、著しく不十分な場合は「保佐」、不十分な場合は「補助」となります。
家庭裁判所は、申立てを受けた後、ご本人の判断能力などを考慮して、最適な支援者(後見人、保佐人、補助人)を選任します。親族が選ばれることもありますが、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家や、法律によって設立された法人などが選ばれることもあります。
選ばれた支援者は、ご本人の生活、医療、介護などの契約を結んだり、財産を管理したりして、ご本人の利益のために活動します。例えば、年金の受領や預貯金の管理、医療費や施設費用の支払いなどを行います。
この制度の主な目的は、ご本人の保護であり、支援者の判断や活動には家庭裁判所の監督が及びます。これにより、ご本人の財産が不当に利用されることを防ぎます。
将来に備える「任意後見制度」
任意後見制度は、ご自身が元気なうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えるための制度です。ご自身が信頼できる方を任意後見人として選び、将来どのような支援(財産管理や療養看護など)をお願いするかを契約で定めておきます。この契約は、公正証書によって行われます。
そして、実際に判断能力が不十分になった時に、ご本人やご家族などが家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選ばれることで、契約の効力が生じ、任意後見人による支援が開始されます。任意後見監督人は、任意後見人がきちんと契約通りに仕事をしているかをチェックする役割を担います。
任意後見制度の大きな特徴は、ご自身の意思で将来の支援者や支援内容を決めることができる点です。「この人に財産管理をお願いしたい」「このように医療や介護を受けたい」といった希望を反映させやすくなります。
どんな人が成年後見制度を考えるべきですか?
成年後見制度は、誰にでも関係する可能性のある制度です。特に、以下のような方は、この制度について知っておくこと、そして将来について考えておくことが大切かもしれません。
- 一人暮らしで、将来頼れる親族が近くにいない方
- ご夫婦だけで生活しており、お互いに「もしも」のことがあった場合のことを考えておきたい方
- お子さんなどが遠方に住んでおり、すぐに支援をお願いすることが難しい方
- 将来、ご家族に負担をかけたくないと考えている方
- ご自身の財産管理に自信がなく、将来が不安な方
- すでに認知症の初期段階にあると診断された方、またはその心配がある方
もちろん、ご家族がお近くにいても、財産管理や契約手続きは専門的な知識が必要な場合もあり、ご家族に大きな負担をかけてしまう可能性もあります。将来、ご自身の意思が反映された形で安心して暮らすために、元気なうちからこの制度を知り、検討しておくことは非常に有益です。
成年後見制度を利用する際の注意点
成年後見制度は、ご本人の保護を目的とした制度ですが、利用にあたってはいくつか注意しておきたい点があります。
例えば、法定後見制度では、一度後見人が選任されると、ご本人の判断能力が回復しない限り原則として継続します。また、後見人はご本人の財産を守る義務があるため、ご本人の希望であっても、財産を大きく減少させるような行為(例えば、高額な贈与など)は制限される場合があります。
また、制度を利用するには、家庭裁判所への申立てや、書類の準備など、一定の手続きが必要です。専門家に手続きを依頼する場合は費用がかかりますし、後見人等には家庭裁判所が決める報酬が発生します。
任意後見制度の場合も、契約内容をしっかりと検討し、信頼できる人を選ぶことが重要です。また、契約締結時や制度開始後にも費用がかかる場合があります。
将来の安心のために、今からできること
成年後見制度は、将来のご自身やご家族の安心のために、大変重要な役割を果たす可能性のある制度です。しかし、制度の内容は少々複雑に感じられるかもしれません。
まずは、このような制度があることを知ることから始めてみましょう。そして、ご自身の将来について、どのような生活を送りたいか、お金の管理はどうしたいかなど、漠然とでも良いので考えてみることが大切です。
もし、この制度についてさらに詳しく知りたい、自分の場合はどうなるのだろう、と疑問に思われたら、お住まいの市町村の窓口や、地域包括支援センター、あるいは弁護士会や司法書士会などが実施している無料相談などを利用してみるのも良いでしょう。専門家は、個別の状況に合わせて、制度の利用方法や、他の選択肢(例えば、家族信託など)についてもアドバイスしてくれます。
将来の不安をなくし、安心して毎日を過ごすために、お金のこと、そしてもしもの時のことについて、今から少しずつ考えて、備えを進めていくことが大切です。