年金生活からの備え 介護施設にかかるお金と資産の活用方法
年金生活を送る中で、将来への備えについて考えられる方もいらっしゃるかと思います。特に、もし介護が必要になった場合に、介護施設に入居するための費用について、漠然とした不安をお持ちの方も少なくないでしょう。介護にかかる費用は、施設の形態やサービス内容、入居期間などによって大きく異なります。しかし、あらかじめ基本的な費用や、ご自身の資産をどのように活用できるかを知っておくことは、不安を和らげ、具体的な準備を始める第一歩となります。
このお話では、介護施設にかかるお金にはどのようなものがあるのか、そして、その費用をまかなうために、お手元の貯金や退職金、あるいは自宅などの資産をどのように考えていけばよいのか、基本的な考え方についてお伝えします。
介護施設にかかる費用の種類と目安を知る
介護施設にかかる費用は、主に「初期費用」と「月額費用」に分けられます。施設の形態によって、これらの費用は大きく異なります。
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初期費用:
- 入居一時金など、施設に入居する際に一度だけ支払う費用です。有料老人ホームなどでかかることが多く、数百万円から、施設によっては数千万円以上になる場合もあります。終身利用権や家賃相当分として支払われることが一般的ですが、償却期間や返還金については施設ごとに規約が異なりますので、よく確認することが大切です。
- 特別養護老人ホームなどの公的な施設では、初期費用は原則としてかかりません。
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月額費用:
- 毎月支払う費用です。主な内訳は以下の通りです。
- 居住費: 部屋代にあたる費用です。施設の形態や部屋のタイプ(個室か多床室かなど)によって異なります。
- 食費: 食事にかかる費用です。自炊ができない施設では必須となります。
- 管理費: 施設の維持管理や人件費、共有部分の利用などにかかる費用です。
- 介護サービス費: 介護保険サービスを利用した際に自己負担する費用です。所得に応じて負担割合(通常1割、所得によっては2割または3割)が決まります。
- その他の費用: 電気水道費、日用品費、医療費、レクリエーション費、おむつ代など、個人の状況や利用サービスによってかかる費用です。
- 毎月支払う費用です。主な内訳は以下の通りです。
これらの費用は、施設の種類(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など)や、施設の所在地、提供されるサービス内容によって大きく変動します。ご自身の状況や希望に合った施設を検討する際に、費用の目安を確認しておくことが重要です。
介護施設費用をまかなうための資産活用を考える
介護施設の費用は、先の見えないものに対する備えであり、不安を感じやすい部分かもしれません。費用をまかなうためには、まずご自身の現在の資産状況を把握することが大切です。
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貯金・退職金の活用:
- お手元にある貯金や退職金は、介護費用を準備するための基本的な資金となります。どの程度の期間、どの程度の費用がかかる可能性があるかを想定し、これらの資金をどのように取り崩していくか計画を立てることが考えられます。
- ただし、介護費用だけでなく、日々の生活費や他の急な出費にも備える必要がありますので、全てを介護費用に充てるわけにはいきません。
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公的年金・その他の収入:
- 毎月受け取る公的年金は、月額費用の大部分をまかなう基礎となります。年金収入で月額費用がどれだけカバーできるかを確認し、不足分を貯金などで補う計画を立てます。
- 不動産収入など、年金以外の収入がある場合は、それらも合算して考えることができます。
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自宅などの不動産資産の活用:
- 持ち家にお住まいの場合、介護施設への入居を機に、自宅をどのように活用するかを検討される方もいらっしゃいます。
- 売却: 自宅を売却することで、まとまった資金を得ることができます。この資金を介護施設入居の初期費用や月額費用に充てることが考えられます。ただし、売却には手続きや費用がかかり、住み慣れた家を手放すことへの心理的な側面も考慮が必要です。
- リバースモーゲージ: 自宅を担保に、金融機関などから借り入れを行い、毎月または一時金として資金を受け取る仕組みです。自宅を売却せずに住み続けることができるタイプや、自宅を離れても活用できるタイプなどがあります。借り入れたお金は、契約者ご本人が亡くなられた後に、自宅を売却するなどして一括返済することが一般的です。自宅に住み続けたい場合や、将来的に自宅を相続させたい意向がある場合など、様々な状況に合わせて検討できますが、利用条件やリスク(金利変動、不動産価格の下落など)を十分に理解することが重要です。
- 賃貸: 自宅を賃貸に出すことで、家賃収入を得る方法もあります。ただし、管理の手間や空室リスクなどを考慮する必要があります。
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生命保険・医療保険・介護保険の活用:
- 加入している生命保険や医療保険、介護保険で、入院給付金や手術給付金、あるいは介護一時金や年金が受け取れる場合があります。ご自身の加入している保険の内容を確認し、どのような場合に給付金が受け取れるかを知っておくことも大切です。
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公的制度の活用:
- 介護保険制度には、費用の負担を軽減するための仕組みがあります。「高額介護サービス費制度」は、所得に応じて1ヶ月の自己負担額の上限が定められており、上限を超えた分は払い戻されます。「高額医療合算介護サービス費制度」は、医療費と介護サービス費の年間自己負担額を合算し、一定額を超えた場合に払い戻される制度です。
- また、住民税が非課税であるなど、所得が低い世帯に対しては、居住費や食費の自己負担額が軽減される仕組みもあります。これらの制度について、お住まいの市区町村の窓口や、担当のケアマネージャーに相談してみることをお勧めします。
早めの情報収集と家族との話し合いが大切
介護施設にかかる費用や資産の活用方法は多岐にわたります。どの施設を選ぶか、どのような資産活用を行うかは、ご自身の健康状態、経済状況、家族構成、そして何よりもご自身の意向によって異なります。
漠然とした不安を抱えているだけでは、具体的な行動になかなか繋がりません。まずは、地域の介護施設について情報収集を始めたり、ご自身の貯金や加入している保険、そして自宅などの資産状況を確認したりすることから始めてみてはいかがでしょうか。
そして、最も大切なことの一つは、ご家族と将来の介護について話し合うことです。ご自身の希望や、費用についてどのように考えているのかを伝え、ご家族の意見も聞くことで、いざという時に慌てることなく、皆で納得できる選択をしやすくなります。費用負担についても、ご家族間で早めに話し合っておくことが、後々の安心に繋がります。
このお話が、皆様が介護施設にかかる費用や資産活用について考えるきっかけとなり、将来への備えを具体的に進めるための一助となれば幸いです。ご自身の状況に合わせて、無理のない範囲で情報収集や話し合いを進めてみてください。